e-ha 通信 2006年5月
第6回 オーダーメード
顔の中で、口元はその方の雰囲気を表す重要な位置を占めております。特に笑ったときに前歯が汚かったり、なかったりしたのが見えた場合、いくらその方が綺麗に着飾っていてもすべて台無しです。
先日、1週間後に同窓会があるという初めての患者さんが来院されました。そのときまでに綺麗な入れ歯をつくってほしいとの要望でした。できないことはないのですが、1週間という短期間で、その方にとって本当に自然に見える歯で、なおかつ良くかめるものをつくるということは至難の業です。
洋服を新調するとき、既製品を手直しする場合でも2〜3日ぐらいはかかると思います。もしこれをオーダーメードした場合、採寸からはじまり試着、手直しなどをするため数週間はかかりますよね。
入れ歯の場合はどうでしょう。同じサイズのものは一つとしてありません。たとえ大きさや形が似ているとしても、きちんとかめてすべて満足できる食事がとれるかは疑問です。
入れ歯をつくる手順はこうです。
最初に口の中の型とりをします。次にその型をもとにかみ合わせをとるもの(咬合床)をつくります。でき上がった咬合床を用いて、2回目に来院されたときにかみ合わせをとります。かみ合わせがとれたらいよいよ入れ歯の形をしたもの(仮義歯)ができ上がります。その仮義歯を3回目に来院されたときに口の中に入れて、大きさやかみ合わせを確認します。
問題がなければ、4回目の来院のときにようやく本物の入れ歯をお渡しすることができるのです。
単純に4日間は必要なのです。ところが実際にはこんなに簡単には進められません。よりぴったりした入れ歯をつくるために型とりを2回行ったり、まずは古い入れ歯の修理(修正)などを行い何が問題なのかを探ったりします。
また残っている歯の治療や抜歯なども必要となる場合もあります。晴れて入れ歯ができ上がったところで、問題なくかめるようになるには、数回の調整が必要です。
それでは入れ歯を失くした方はどうなるのでしょう。釣りの最中にくしゃみをしたら海に落ちてしまったなどのケースがあります。この場合まず優先することは“とにかく入れ歯を入れる”ということになります。審美性などは二の次で、食事ができるようにするということに尽きます。そのときは先ほどの手順を極力割愛し、ある意味一発勝負で仕上げます。その後、時期を見計らい大幅な手直しをするのです。
このように全く初めてで何も口の中の情報がない患者さんに、1週間で審美性に優れ、すぐに使い物になる入れ歯をつくるのは不可能なのです。
コンビニのように何時でもすぐに欲しいものが手に入る便利なお店が増えました。そのためでしょうか、医療に対しても同じような感覚で無理な要求をされる方が増えています。
歯科の治療はすべてが何一つとして同じものはなく、詰め物や差し歯、入れ歯は完全にオーダーメードになるのです。それを保健診療の場合、採算割れギリギリの金額でつくり、信じられない程の短時間で仕上げているのです。
このような事情がありますので、特別な日に合わせて新しい入れ歯や差し歯を作り替えたいなどの場合も、1か月以上の余裕を持って来院していただければと思います。
三上卓也(みかみたくや)先生
昭和42年神奈川県生まれ 神奈川歯科大学卒業 平成6年 神奈川歯科大学付属総合診療科勤務 平成8年 仁歯会 松井歯科医院勤務 平成11年 神奈川県三浦市にて開業 横須賀市歯科医師会/三浦臨海高校学校医/日本歯内療法学会所属 趣味はスクーバダイビング・写真(陸上/水中)・クラッシック音楽鑑賞・フルート演奏・旅行など多彩。三崎合唱会ではテノールを担当。
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