e-ha 通信 2006年2月
第5回 歯の治療そんなに急いで何になる!
「差し歯が取れたんだけど、これから行くから付けてくれない?」と電話口。
「予約制なので○○時にいらしてください」と答えても、「ちょっと接着剤で付けてくれればいいのよ! そんなのすぐできるでしょ! 患者さんの途切れたちょっとした空き時間に診てよ!」との反撃。「診てみないと判らないので予約をお取りください…」と答えるのに精一杯でした。
皆さんは1回の歯の治療にどのくらいの時間がかかると思いますか。取れた差し歯を付けるということを例に挙げてみましょう。まず、取れた差し歯についている古いセメントを除去し、口の中の清掃と乾燥をします。3〜4分はかかるでしょう。次に接着剤であるセメントを練り、歯に付ける(合着)作業に約2分。セメントが固まり安定するまでに合着してから約5分(セメントの種類によっては7分以上)。差し歯から溢れている余剰のセメント除去に約2分。
この他、患者さんが入れ替わるたびに、使った器具や椅子の清掃と消毒をしますから、すべてを行うと最低でも15分から20分は必要となります。もし歯が崩壊していたり抜歯でしか対処できないとなるとその時間は計り知れません。
取れたものを後先考えずに瞬間接着剤などで付けるのなら1〜2分でできるかも知れませんが、それは医療ではありません。もしそのようなことをすれば身体に何らかの害が生じることは、歯科医でなくとも想像できると思います。
歯の治療とは、すなわち、身体の病気を自ら治す力を促す「生物の分野」、差し歯や入れ歯などを作る「職人の技」、それを接着剤などで付けたりする「化学の分野」、かみ合わせなど歯にかかる力を考える「物理の分野」などの総合で成り立っています。
先日あるテレビ番組の司会者が、歯の治療はすぐにできるのに歯科医の都合で何回にも分けて治療していると、あたかも知っているかのように言っておりました。でも、それは違います。おそらく、このような発言が冒頭の患者さんのような考えを助長するのでしょう。
初期の虫歯治療の場合ならたしかに1〜3回ぐらいで終わるでしょう。しかし、神経を取るなどの治療を行った場合や歯周炎などを併発している場合、欠損やかみ合わせなどを考慮しなければならなくなった場合などは、口の中全体を考え、身体の状態や治り具合を診ながら治療法を変化させていかなくてはなりません。
患者さんのやる気や協力度も関係します。そしてある程度治癒の見込みが出てきたところで、患者さんにとって一番良いと思われる、しかもその状態を長持ちできるような補綴物(差し歯や入れ歯など)を造っていくのです。
その後も、常に最良の状態を保つためのお手入れが必要になります。ですから治療期間は2〜3年かかるのです。
長年かかって悪くなったものを一夜で治せる訳がありません。しかし、歯の治療となると削って詰めることや抜歯というイメージが先行し、簡単に処置できると思われがちです。
歯の治療は、物理的な処置ばかりでなく、身体の再生能力も関わっていますから、時間がかかるものなのです。そのために歯科医院は計画診療と予約制になっているのですね。
三上卓也(みかみたくや)先生
昭和42年神奈川県生まれ 神奈川歯科大学卒業 平成6年 神奈川歯科大学付属総合診療科勤務 平成8年 仁歯会 松井歯科医院勤務 平成11年 神奈川県三浦市にて開業 横須賀市歯科医師会/三浦臨海高校学校医/日本歯内療法学会所属 趣味はスクーバダイビング・写真(陸上/水中)・クラッシック音楽鑑賞・フルート演奏・旅行など多彩。三崎合唱会ではテノールを担当。
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