2009年11月
第44回 風穴(かざあな)
その人は、爽やかな空気をたずさえてやってきた。
「こんにちは。柵を直しにやってきました」
ベランダにある格子状の柵。その格子に子ども達が足をかけたりするものだから、ところどころ外れたり斜めになったり。それを大工さんが直しに来てくれた。
「2階に上がってください」
案内した先には息子とその友だちが二人。電子ゲームに夢中になっている。
ゲームより身体を動かしてほしい。人と関わって遊んでほしい。そう思って我が家にゲーム機の類はない。
だが友だちが持ち込むものまでは禁止もできず。「もお〜っ」と思いながらも容認してしまっている。
その横を大工さんが通り過ぎる。
「お?3年生くらいかな。うちの孫と同じくらいだ」
図星である。
画面に釘付けだった子ども達の目が、一瞬大工さんを捉え「うん」とうなずいた。
大工さんはベランダに出ると、メジャーや曲尺を取り出して格子の様子を調べ始めた。いつの間に来たのだろう。子ども達がその様子に興味深げに見入っている。
「う〜ん、これは取り換えるよりも、ビスでひとつひとつ留めた方がいいな」
大工さんの独り言。
そしてふと、後ろに並んだギャラリーに気付いて声をかけた。
「3年生というと、掛け算も習っている頃だな」
「うん。割り算だって習ったよ」
「ってぇことはだ。ビスはいくら必要だ? 1、2、3、4・・・。7×9はいくらだ?」
「7・9、63!」
子ども達の声が自慢げに揃う。
「んで?それがいつつ。63×5ではどうだ?」
「え〜!?」
さっきの自信はどこへやら。急にそわそわし始める。紙に式を書く子。ビス留め部分を数える子。はたまた「計算機は?」と聞きに来る子(あ。うちの子です)。その様子を大工さんはにこにこしながら見守っている。少したって。
「315!」
筆算した子の声が一番乗り。わが子の声が二番乗り。その後は、数を数える子どもと声を合わせる。
「・・・・313、314、315! やった〜、あってる〜!!」
「よし!じゃあおっちゃん、ビスを注文しよう」
そう言って大工さんは子ども達の目の前で携帯電話を取り出し、ビスを315個注文した。それを見つめる子ども達の誇らしげな顔ったら。「鼻息フンフン」が聞こえてきそうなほどである。
そっか、そうだね。お母さんはなんだか少しわかった気がする。
子どもだって人の役に立ちたがっていること。
生活の中にも学びの元はいっぱい落ちていること。
ゲーム禁止より、興味の持てる何かを見つけてあげればいいこと、など。
(息子は計算機を使ってさえ、計算が遅いこともね)
次の日、早速ビスが留められた。
すっかりきれいになった柵の間から、わが家に心地よい風が吹き込んだ。
若松亜紀(わかまつあき)先生
1968年秋田県生まれ。1990年、秋田大学教育学部幼稚園教員養成課程卒業。私立秋田南幼稚園に7年間勤務。シュタイナー教育を保育に取り入れる。閉園により退職。
保育経験や育児を綴ったエッセイ「心で感じる幸せな子育て」(ほんの木)を出版。2005年「粗食のすすめ」の幕内秀夫氏との共著「マンガでわかる食育」(かもがわ出版)出版。教育関係広報誌への連載、講演活動、ラジオ子育てコーナーなども担当。2006年4月には「子どもが輝く幸せな子育て」(ほんの木)を出版しました。
現在は秋田市の自宅で、「出会いと生きがいづくりの場、陽だまりサロン」を運営。毎日たくさんの親子連れでにぎわっています。夫と10歳の娘(華凛)と、8歳の息子(飛龍)の4人暮らし。
陽だまりサロンのブログです。http://yaplog.jp/hi-damari/
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