2008年4月
第25回 桜並木の中で
桜のつぼみが膨らんだ。それは、空を見上げて胸を張り、深く深く息を吸っているかのよう。木々全体を染めながら、ため込んだエネルギーを解放する日を待っている。
春。
初めての幼稚園に、とまどいながら通う子もいるだろう。大きなランドセルを背負って、駆け出す子どももいるだろう。仕事を始めて、新しい生活に張り切るママもいるだろう。それぞれが、それぞれのどきどきを抱える、スタートの季節。
「ずっと子どものそばにいてあげた方がいいの?」
「子どもといる時間が短いと、なにか影響ってあるのかな」
仕事と子育ての狭間で揺れるママから、時々そんな言葉がこぼれる。
「私は専業主婦でやってきたから、ずっと子どものそばにいたよ。でもだからって、よく育ってるかなんて、そんなのわかんないな〜。自分がイライラして限界な時も一緒でさ、子供にあたっちゃう時もあったし。それよりも、だんなに預けて買い物行って、帰ってきた時は心底子どもが愛しいと思ったね。一緒にいる時間の長さと、愛情の深さって、比例しないと思うんだよね」
「うんうん、わかるな、その感覚。たまのリフレッシュで自分の服買いに行っても、結局子どものもの買ってたりして」
「そうそう。で、また次の日から『着るものな〜い』とか言ってるんだよね」
ころころと、鈴を転がしたような笑い声が響いた。
そう、きっと、時間の長さと愛情は比例しない。
いつか、泣いている私のそばに寄り添ってくれた友のように、最後のホームルームで、先生がくれた言葉のように、一人暮らしに旅立つ朝、母が流した涙のように。短い時間でも、いくつ時が流れても、身体に染みついて離れない記憶がある。一瞬の出来事の中に、永遠に残る宝石がある。
「どれだけ真剣に心を向けるか」。それが全てではないだろうか。
誰かが誰かに真っ直ぐに向ける気持ち。それがレーザー光線みたいにピンポイントで入り、奥深いところまで達するんだ。
だから、短い時間でいい。おうちにいるママも、外で働くママも。しっかり心と体と顔を向け、子どもの話を聞く時間、向き合う時間があればいい。それできっと、愛情が伝わるよ。子どもが安心して育っていくよ。
「桜はね、つぼみは上を向いているけれど、咲く時は下を向くんだよ」と誰かが言った。そうか、桜はこちらに顔を向けて咲くんだね。だから美しく、いつまでも心に残るのかもしれないな。
もうすぐ花も見頃となる。そんなことを思いながら君たちと、桜並木を歩こうか。
若松亜紀(わかまつあき)先生
1968年秋田県生まれ。1990年、秋田大学教育学部幼稚園教員養成課程卒業。私立秋田南幼稚園に7年間勤務。シュタイナー教育を保育に取り入れる。閉園により退職。
保育経験や育児を綴ったエッセイ「心で感じる幸せな子育て」(ほんの木)を出版。2005年「粗食のすすめ」の幕内秀夫氏との共著「マンガでわかる食育」(かもがわ出版)出版。教育関係広報誌への連載、講演活動、ラジオ子育てコーナーなども担当。2006年4月には「子どもが輝く幸せな子育て」(ほんの木)を出版しました。
現在は秋田市の自宅で、「出会いと生きがいづくりの場、陽だまりサロン」を運営。毎日たくさんの親子連れでにぎわっています。夫と10歳の娘(華凛)と、8歳の息子(飛龍)の4人暮らし。
陽だまりサロンのブログです。http://yaplog.jp/hi-damari/
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