子育て

秋田さきがけ大畑専売所

社会への関心は成長のあかし 新聞は社会への窓口です

2007年1月

第10回 エールよ届け


「私もこんな、子育てサロンを開きたいんです」

陽だまりにちょこちょこ通ってくれていた彼女は、何度目かの来店時に、はにかみながら打ち明けてくれた。

スポーツ万能で均整のとれた体、ボーイッシュなすっきりした出で立ち。さばさばと語る口調とは裏腹に、「皆さんで召し上がってください」と手作りの土産を差し出す。まだ幼い娘さん二人に振り回されながらも、「はいはい」と世話をやく姿は微笑ましくもある。

「自分の育児だけでも手一杯なこの時期に、人のことまで考えられるなんてすごいな」

いつもいつも「いっぱいいっぱい」だった自分の子育てを省みて、素直にそう思う。

「夢に一歩近づきました」その後彼女が報告してくれた。ご自分の親と同居することになり、家を新築するのだという。その家の一部を、サロンスペースにするのだとか。「これから忙しくなります」。そう話す彼女の瞳は、キラキラと光り輝いていた。

けれど、運命のいたずらだろうか。家が完成しもうすぐ引っ越しという秋の日、彼女は浮かない顔でやってきた。

「どうやら、だんなが転勤みたいで。。。子どもが小さいうちは一緒にいたいから、私も付いていこうと思うんです」

夢が目前に迫ったところでのどんでん返し、どんなにかがっかりしたことだろう。

「そっか、残念だったね。でも家はずっとあるんだから、戻ってきたらやれるんだし。気を落とさないでね」

そんな、当たり障りのないことしか言ってあげられない自分が情けなかった。そうして彼女はとりあえず、予定通り新築の家へと越して行った。

「どうしてるかな。落ち込んでるだろうな。何か力になってあげられないかな」

気持ちを整理するように言葉をかみしめていた彼女の顔が、何度も何度も脳裏をかすめる。

ところがその数日後、そんなやりきれなさを見事に裏切るメールが届いた。

「子育てサロンの夢は延期になったけど、今できることから始めようと思います。まずは場所を借りて、ママカフェ的な活動をします。日程も決めて告知もしたので、その準備に向けて今、大忙しです」

「おっとっと、そう来たかい!?」

スピーディーできっぱりとした彼女の決断に、あっはっはと笑い出したいくらい清々しい気持ちになった。

これからもいろんな試練があるだろう、思い通りにならず迷うことだってあるだろう。でも彼女なら、大丈夫。きっと周りを驚かせながらも、そつなくすいすい超えていける。

ス〜

これ以上ないくらい、お腹いっぱいに息を吸い込む。

「張り切っていこおおおお!!」

北に越した彼女に届けとばかり、大空に向かって精一杯の声を張り上げた。

若松亜紀先生若松亜紀(わかまつあき)先生

1968年秋田県生まれ。1990年、秋田大学教育学部幼稚園教員養成課程卒業。私立秋田南幼稚園に7年間勤務。シュタイナー教育を保育に取り入れる。閉園により退職。

保育経験や育児を綴ったエッセイ「心で感じる幸せな子育て」(ほんの木)を出版。2005年「粗食のすすめ」の幕内秀夫氏との共著「マンガでわかる食育」(かもがわ出版)出版。教育関係広報誌への連載、講演活動、ラジオ子育てコーナーなども担当。2006年4月には「子どもが輝く幸せな子育て」(ほんの木)を出版しました。

現在は秋田市の自宅で、「出会いと生きがいづくりの場、陽だまりサロン」を運営。毎日たくさんの親子連れでにぎわっています。夫と10歳の娘(華凛)と、8歳の息子(飛龍)の4人暮らし。

陽だまりサロンのブログです。http://yaplog.jp/hi-damari/

だいすきよっ

第01回 出会いと生きがいの場を
第02回 あのころの私
第03回 心の寄せ鍋
第04回 おにぎり
第05回 おばあちゃん
第06回 やわらかくしなやかに
第07回 安心に包まれて
第08回 親切のバトン
第09回 スプーンおばさんの魔法
第10回 エールよ届け
第11回 笑福講座
第12回 なごり雪
第13回 梅のつぼみ
第14回 花咲き実れ女たち!
第15回 秋田の元気
第16回 なにもない豊かさ
第17回 ひらめく
第18回 誕生日
第19回 輝く未来のために
第20回 三つの期待
第21回 靴ひもを結んで
第22回 今、この時、君たちと
第23回 神様からの贈り物
第24回 開けないダイレクトメール
第25回 桜並木の中で
第26回 秋田のパワースポット
第27回 一本の軸となれ
第28回 地域の先生大募集
第29回 初女さんのおむずび
第30回 はじめの一歩
第31回 笑顔の魔法
第32回 ものは考えよう
第33回 お得な時間の使い方
第34回 やる気スイッチ
第35回 人を動かすもの
第36回 キットダイジョウブ
第37回 やさしさバトン
第38回 言葉のフシギ
第39回 背中を押してくれた人
第40回 いいこといっぱい
第41回 夏休みっていいな
第42回 魔法使いのお兄さん
第43回 愛情を測る定規
第44回 風穴(かざあな)
第45回 そこから始まる
第46回 コトバのチカラ
第47回 言葉に支えられて
第48回 できる道
第49回 先生の参観日
第50回 父のみそ汁
第51回 陽だまりサロン5周年
第52回 ちょっと緊張!講演録1